試し読み 小説「愛してメトロ」谷町線

 おもしろくない。
 最近何をしていても気分がモヤモヤしてスッキリと晴れることがない。
 けだるくて、なんともイライラした気分で、ゆうはいつもの地下鉄に乗っていた。
 毎朝の通学。中学の三年になってからは週に二回、朝の早朝小テストがあるために、今日は普段よりも三十分早く起きて家を出ないといけないから余計に億劫だ。
 朝が弱いゆうには苦戦以外の何物でもない。まして今朝は、いつもにまして母親の一言がいちいち鬱陶しかったこともあって気分は最低といった感じだ。よくもまあ毎日、同じことが言えるものだ。
 「早く用意して行きなさい。」
 「今朝は早朝テストでしょ。ちゃんと受けるのよ。」
 「こないだの中間テストも英語がむっちゃ悪かったやん。」
 「塾の宿題もちゃんと終わってんの?」
 だいたいこんな感じだ。
 宿題のチェックとテストの点数にとにかくうるさい。そのくせ毎日妹の面倒を見るのに手いっぱいだから、日ごろの細かいことなどなにもわかっていない。
 妹はフィギュアスケートを習っていて、ほぼ毎日学校が終わったらスケートの練習やクラシックバレエのレッスンに行っている。フィギュアスケートをやっている子供の母親は、朝から晩までほぼ子供に付きっ切りで、練習の送り迎えや発表会で着る衣装の準備などに四六時中奔走しないといけない。
 だったら自分のことは放っておいてくれればいいのに、学校や塾のテスト結果にだけはいつも注意深く意識を向けてきて、ガミガミ言ってくる。
 だいたい、中学に入ってからしんどい思いをしないためという理由で中学受験をさせられて私立の中学に入ったのに、結局中学生になってからも塾に通わされるなんて、騙された気分で一杯だ。大学受験が終わるまでずっとガミガミ言われながら学校と塾に通う日々を過ごさないといけないのだろうか。
 思えば、幼稚園の頃から色々な習い事をさせられていた。水泳、ピアノ、書道、体操などなど。
 「〇〇やってみたくない?」と聞かれて軽い気持ちで、「うん」と答えて始めたものもあれば、塾など有無を言わさずに通わされたものまで。
 「小さいうちに色んな可能性に触れさせてあげたい。」というのがママの言葉だったけど、小学校の低学年頃には平日のほぼ大半が習い事で埋められたから、友達と放課後遊ぶのも難しかった。
 ゆうの場合、どの習い事も特にハマることも上達することもなく、一番勉強が普通だろうってことで高学年からは本格的に中学受験の塾になった。
 妹はフィギュアスケートをつよく希望して習わせてもらって、ここ最近小さな大会でもいい成績を収めたこともあって、「サヤ、将来はオリンピック目指す~」なんて言って一層ハマりこんでいるし、ママも妙にその気になってこれまで以上付きっ切り状態になった。オリンピックなんてそんな簡単に行けるわけないのに。
 
 電車が谷町六丁目駅に着いた。ドアが開くと、乗り込んでくる乗客の中にまた奴がいた。
 

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